物語の基本パターンは「行って帰る」 瀬田貞二『幼い子の文学』 

人々の心にうったえる物語には、基本パターンがあります。

日常世界から非日常世界へ「行って帰る」というのが、物語の最も基本的なパターンです。

 

このことを指摘したのは、児童文学者の瀬田貞二(1916‐79)です。

瀬田は、映画『ロード・オブ・ザ・リング』の原作である、J・R・R・トールキン(1892‐1973)の『指輪物語』(1954‐55)の訳者として知られています。

 

ちなみに、『指輪物語』は、アメリカに渡ると、「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(通称「D&D」というテーブルトークRPGの成立に影響を与えました。

「D&D」は、世界で最初に生まれたRPG(ロール・プレイイング・ゲーム)です。

それはやがて、日本のRPG「ドラゴンクエスト」の元ネタとしてつながっていきます。

行って帰る」物語である『ドラゴンクエスト』シリーズは、1980年代の販売開始以降、大ヒットを記録し、空前のRPGブームを引き起こしました。



瀬田は、「行って帰る」物語が、小さい子供たちにとって、その発達しようとする頭脳や感情の働きに即した、一番受け入れやすい形だと指摘しています。

 

なお、「行って帰る」と言っていますが、物理的に同じ場所に帰ってくるとは限りません。

そのまま同じ場所に住んでしまったり、さらに別の場所に行ってしまう場合もあります。

その場合でも、主人公の意識の面では、〔日常世界〕から〔非日常・未知の世界〕に「行って」、〔日常世界〕に「帰ってくる」という構造になっています。

 

瀬田が指摘している「行って帰る」の物語構造は、ジョーゼフ・キャンベル(1904‐87)が『千の顔をもつ英雄』で主張した、英雄神話の3部構成論(「旅立ち」「イニシエーション」「帰還」)とも重なる考え方です。

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