法学メモ 法の解釈

法の解釈とは

法学の修得者は、具体的な紛争について、適切な法をあてはめ、その紛争の適切な解決を図ることができるようにならなければならない。つまり、法の適用ができるようになることが求められる。

法の適用は、

①証拠からいかなる事実があったかを認定する作業

②各種の法源から適用されるべき法を見つけ出す作業

③事実に法をあてはめ、妥当な結論を導き出す作業

から成り立っている。

そして、法の解釈とは、端的にいうと、法の適用から①を除いた作業である。すなわち、ある事実が存在するとしたらどのような法的効果が認められるかを考察する作業である。

学理解釈と有権解釈

広義の法の解釈は、大きく学理解釈と有権解釈に分けられる。

通常、法の解釈と言えば、広義の法の解釈から有権解釈を除いた狭義の法の解釈を指すのが一般的である。

学理解釈(無権解釈)

法を学んだ私人(例:学者、弁護士)が学問上の理論に基づいて行う法の解釈のことを学理解釈という。何らかの法的な権限を与えられている者が行う解釈ではないため、無権解釈とも呼ばれる。

学理解釈は、文理解釈と論理解釈に分けられる。論理解釈の方法としては、拡張解釈・縮小解釈・類推解釈・反対解釈などが挙げられる。

有権解釈(公権的解釈)

権限ある機関が、この権限に基づいて行う法の解釈のことを有権解釈という。公権力の行使と結びついていることから公権的解釈とも呼ばれる。

立法解釈

ある用語の意味が成文法の中で定義づけられることがある。その用語を立法過程の中で解釈し、その意味を確定させるためになされる。これを立法解釈という。

行政解釈

行政解釈とは、法律の条文を明確化するために行政が行う解釈のことで、通常、上級機関から下級機関に対して発せられる通達の中に示され、下級機関は上級機関の行政解釈に従わなければならない。

行政解釈はあくまでも行政機関限りのものであり、国民を直接拘束するものではない。

司法解釈

裁判所が行う解釈のことを司法解釈という。

裁判所は妥当的な解決を図るため、違憲立法審査権を行使したり、条理を適用するなど、柔軟な法解釈を行うことができる。

裁判は、古来より単なる機械的法適用の場であったわけではない。司法は継続的な法形成を図る使命を担い続けている。

そして、こうした継続的な取り組みを通して、社会の変化に合わせた形での新たな法形成が実現していくのである。

法解釈学は、裁判所がこうした活動を行うことを前提にしたうえで、裁判所に対しあるべき解釈を提言していくことを目指している。

法の解釈の方法

文理解釈

成文法で書かれた条文等を、普通の意味に則っておこなう解釈。

拡張解釈・縮小解釈

条文を適用するにあたり、そこに用いられている言葉を、普通の意味より広めの意味にとる解釈のことを拡張解釈という。

(例)「橋の上では車馬通行止」という規則がある場合に、馬という言葉を広げてロバも入ると解釈

これとは逆に、狭めの意味にとる解釈のことを縮小解釈という。

(例)「橋の上では車馬通行止」という規則がある場合に、車の中には子供の三輪車は入らないと解釈

類推解釈・勿論解釈・反対解釈

ある事項について定めた法がない場合に、それと類似した別の事項について定めている法を適用する解釈を類推解釈という。

(例)「橋の上では車馬通行止」という規則がある場合に、鹿も通行止めだろうと解釈

なお、罪刑法定主義の原理から、刑事裁判において被告人に不利な形になされる類推解釈は禁止されている。

類推適用が当然と考えられる場合には特に勿論解釈という。

(例)「橋の上では車馬通行止」という規則がある場合に、ゾウも当然通行止めだと解釈

法に規定されている事項の反面から、規定されていない事項を肯定する解釈を反対解釈という。

違憲立法審査権の行使

日本国憲法では、裁判所に違憲立法審査権が与えられている。条文の適用の結果、不合理な結論が出る場合、裁判の中で、その条文の全部または一部を削除することが可能である。

条理の適用(補充的法創造)

条理により規範を創出する権限を裁判所が持つことを認めた条文は存在しないが、公正な裁判を実現するためには、補充的な形で新たな規範を創出することも可能であるとみるべきである。

法の解釈の流れ

1.問いの確認

誰が、誰に、何を請求しているのかを明確に把握する。

2.法分野と法律の特定

問いが民事法・刑事法・公法等のうち、どの分野に関わるものであるのかをつきとめる。

そして、問いに関わるのが、各分野の中のどの法律であるのかを特定する。

まずは成分の法源から該当する法律を探すが、場合によっては判例や慣習など不文の法源をピックアップすることが必要となる。

3.条文の特定

法律の目次を確認すると、内容上のまとまりごとに、編・章・節・款・目という形でまとめられている。

目次を通してその法律が全体的にどういう体系で成り立っているか理解することができる。

見出し等も補助的に使いながら、関係しそうな条文を探す。

4.文理解釈

まずは文理解釈をおこなう。すなわち、探し出した条文を、普通の意味に則って解釈する。

5.フローチャートの作成

条文から要件や効果が何であるかを読み取り、フローチャートにまとめる。

6.あてはめを行う

要件と効果をまとめたフローチャートに事実関係をあてはめ、結論を導き出す。

7.総合的な評価

結論が妥当であるかを総合的に評価する。

この評価の結果、結果が妥当であると判断されるならば、法解釈はここで終了となる。

8.発展的な法の解釈

「⑦総合的な評価」において結果が妥当であるとの評価を下すことができない場合には、解釈をやり直す。

今度は発展的な法の解釈として、論理解釈(類推解釈・反対解釈・拡大解釈・縮小解釈など)を適宜用いたり、違憲審査権を行使したり、あるいは条理を適用して妥当な結論を導き出すことを目指す。

発展的な解釈を行った後、再び「⑤フローチャートの作成」→「⑥あてはめを行う」→「⑦結論を出す」の作業を行う。

その結果出てきた解釈がまた妥当と評価できないならば、別の解釈が必要となる。発展的な法の解釈とその妥当性の評価は、時には何度も繰り返さなければならない。

法の解釈の妥当性の実質的基準

1.憲法の枠内におさまっていること

法の解釈は日本国憲法に則ったものでなければならない。

2.立法趣旨(立法者の意思)

文言を読むだけでは立法趣旨がはっきりしない場合は、立法過程を調査し、それを通じて判明した立法者の意思に従った解釈をすべきである。

立法者の意思は、法の解釈の妥当性の根拠として最も重要なものの一つである。

3.法目的

立法時に予想していなかった事態が生じた場合、立法者の意思が存在しない以上、立法趣旨に即した解釈は不可能である。また、社会状況が立法時より変化し、問題を解決できないということも生じ得る。

このような場合、解釈の妥当性の基準となるのは、法目的(法律意思)である。

法目的とは、条文等が目指しているところを、その法律全体の体系を考察し、その法律全体から論理的に導かれる形で明確にするものである。

4.体系性

それぞれの条文は、成文法がもつ体系的なまとまりの中に位置づけが与えられている。また、一つ一つの成文法も、より大きな法体系の中で相互に様々な形で関連し合っている。例えば、ある成文法と別の成文法は、ときに上位法・下位法の関係に立ったり、一般法・特別法の関係に立つ。

法秩序全体の中におけるその成文法の位置づけを確認し、その位置づけに即した形で条文を解釈することも求められるのである。

5.具体的妥当性

裁判における適正な解決を可能にするような解釈こそ妥当である。

6.総合的判断の必要性

上記に列挙した基準のいくつかは満たすもののいくつかには反するものであった場合、どの解釈が最も妥当かは容易に判断することはできない。

このような場合、最高裁の大法廷では、最終的には多数決で決することになる。しかし、その問題についての議論はそこで終わるわけではなく、同様の問題が生じた場合にあって、いかなる法の解釈をすべきか、法学を学んだ者たちの間で引き続き議論を継続していく必要がある。

 

(参考文献)

『法学入門』永井和之、森光 編(中央経済社 2023)

『現代法学入門』伊藤 正己、 加藤 一郎 編(有斐閣双書 2005)

『法学』山田 晟(東京大学出版会 1992)

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