法学メモ 法源・法の存在形式について

法源

法源とは、裁判官が裁判をするにあたって、根拠とするべき基準となるものである。

裁判官が制度的に従うものとされている法源

制度上の法源、法律上の法源、法解釈学上の法源ということができ、

制定法や慣習法があげられる。

裁判官が事実上従っている法源

事実上の法源、法社会学上の法源ということができ、

判例・条理・学説があげられる。

 

法の存在形式

法の存在形式を整理するため、古代ローマ時代以来、これを成文法と不文法とに分ける区分が用いられてきた。

成文法とは、規範の内容が文の形をとって表現されている制定法のことをいう。

不文法とは、規範の内容が文の形で表現されていないものであり、慣習法・判例・学説・条理があげられる。

成文法(制定法)

憲法

日本国憲法の前文は、この憲法を制定したのが国民であるという立場を明確にしている。また、国民には、国民投票という形で憲法の改正の可否についての最終的判断を下す権限が与えられている(憲法96条)。

日本国憲法は単に法源の一つであるにとどまらず、この憲法により法律・命令・条例・条約・規則が法源性をもつことになる。

日本国憲法は日本の最高法規であるとされ(憲法98条)、法律等の内容が憲法の定めに反するときは法的効力を有さない。その判断は裁判所に委ねられている。

法律

日本国憲法において、国会は日本の「唯一の立法機関」であるとされ、国会の制定する法律は、憲法を除くその他の法形式に優越する地位が与えられている。すなわち、命令や条例といった法形式は、法律に反する内容を規定してはならない。また、法律に反する慣習法は法的効力を有しない。

命令

法学における命令とは、国の行政機関が制定する規範をいう。具体的には、内閣が制定する政令、内閣府が定める内閣府令、各省大臣が定める省令、規則などがある。

命令は、法律により委託された事項および法律を執行するために事項に関してのみ制定できる。前者を委任命令、後者を執行命令という。

条例

条例とは、都道府県や市町村といった地方公共団体が制定する法形式である。

地方公共団体の議会に条例を制定する権限が認められているが、それは自治の範囲に限定され、また、憲法・法律・命令に反することはできない。

条約

条約とは、国際法上の複数の主体(国会や国際組織)の間で文書の形で締結された合意のことを指す。

その文書に協約・協定・憲章という名称がつけられていても、これらは条約という概念に包摂される。

日本国憲法のもとでは、条約締結は内閣が行うとされている。内閣から派遣された施設が合意文書を作成して調印し、それを内閣が批准する。ただし、その批准は、事前または事後の国会による承認を必要とする。

規則

特殊な法規として、各種の機関が制定する規則がある。

議員規則(憲法58条2項)

国会の両議院は、会議その他の手続及び内部の規律に関する規定、また議員の懲罰に関する規則を定めることができる。

裁判所規則(憲法77条)

最高裁判所は、訴訟に関する手続き、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について規則を定めることができる(同条1項)。

また、最高裁判所は下級裁判所に、下級裁判所に関する事項についての規則制定を委任できる(同条3項)。

規則という名称をもつ命令(例)

人事院規則(国家公務員法16条)

会計検査院規則(会計検査院法38条)

各行政委員会の定める委員会規則(国家行政組織法13条)

地方公共団体の長が地方自治法に基づき定める規則(地方自治法15条)

不文法

慣習(慣習法)

世代を超えて社会が継続する中で、自然に行動様式が生成されていく。そして、その社会に生きる人々の間で、こうした行動様式を取るべきという規範が共有されるに至る。この規範のことを慣習(慣習法)と呼ぶ。

古代ローマの私法は、その大部分が慣習法により成り立っていたが、近代になり法典編纂がなされると、それまで不文法として存在していた法は、その大部分が法典の中に取り込まれた。

現在の日本では、法の適用に関する通則法3条に基づき、慣習は、法令の規定により認められたもの、あるいは法令の規定のない事項に関するものに限り、法源性が与えられている。

判例

判決とは、裁判所または裁判官の行う公権的な法的判断のうち、口頭弁論に基づいてなされるものをいう。そして、判例とは、先例となるべき判決や決定のことをいう。

英米法系の諸国では、先例拘束性の原則に従い、裁判官は過去の同様の事件における判決に拘束される。

それに対し、わが国の場合、裁判官は判例に拘束されるわけではないため、判例と異なる結論を出しても構わない。しかし、裁判官が過去の判決と異なる判決を下す場合、より慎重な手続きをとることが求められることが多く、裁判官は以前の判決と同じような結論を出す傾向が強い。したがって、事実上、判例に法源性があると言ってもよい状況にある。

裁判官が法規の文言から離れた法解釈を行い、その解釈が繰り返し判決の中で採用されることもある。すなわち、現代の日本の法秩序にあっては、形式的には裁判官に立法権はないものの、ある程度の法創造を裁判という枠組みの中で行っていくことは許容されているといえる。

条理

条理とは物事の道理・筋道、社会通念のことであり、裁判が行われる際に、成文法・判例法・慣習法のいずれにも該当する法律が存在していない場合、裁判官が判断基準とするものである。

条理という語は、明治8年(1875年)の太政官第103号布告裁判事務心得の3条の「民事ノ裁判ニ成分ノ法律ナキモノハ習慣ニ依リ習慣ナキトキハ条理ヲ推考シテ裁判スヘシ」という規定に由来する。

スイス民法第1条の「この法律に規定がないときには、裁判官は慣習法に基づいて判断しなければならない。その慣習法もかけているならば、裁判官は、自己が立法者ならば法規として定めるであろうと考えるところに従って判断しなければならない」という規定は、条理の内容を示したものと考えられている。

学説

学説は、歴史的には古代ローマのように法源として公に認められたこともある。しかし、現在では、学説は直接に裁判の基準とされるわけではなく、法の解釈を通じて裁判に影響を及ぼすものと考えられる。したがって、学説は制度上も事実上も法源とは言えない。ただし、実際には裁判に大きな影響を与えている。

 

(参考文献)

『現代法学入門』伊藤 正己、 加藤 一郎 編(有斐閣双書 2005)

『法学入門』永井和之、森光 編(中央経済社 2023)

『法学』山田 晟(東京大学出版会 1992)

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