日本型雇用システムの特徴 ~新卒一括採用、定年制、定期人事異動、教育訓練、人事査定

日本型雇用システムには、「三種の神器」と言われる終身雇用制度、年功序列賃金、企業別労働組合の他にも、新卒一斉採用、定年制、定期人事異動など、さまざまな特徴があります。

この記事では、「三種の神器」以外の特徴を取り上げていきたいと思います。

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日本型雇用システムの特徴

新卒一括採用

ジョブ型社会では、企業が労働者を必要とするときにそのつど採用を行うことが一般的です。また、労働者を採用/解雇する権限は、実際に労働者を必要とする各職場の管理者に与えられています。

つまり、基本的に欠員募集による採用がすべてです。

これに対して日本では、学生が卒業する4月1日に、一斉に彼らを労働者として採用します。いわゆる新卒一括採用が日本の特徴ということになります。

また、実際に仕事をする数か月前から内定という名称で雇用契約に入ります。

そして、このほかの大きな特徴として、採用の権限が現場の管理者にはなく、人事部門に中央集権的に与えられているという点が挙げられます。個々の職務の欠員補充よりも、メンバーシップを付与するか否かの判断を重視しているのです。

※ジョブ型社会とは、雇用契約を結ぶ際に職務を明確にする社会のことです。これに対して、職務を明確にしない日本社会はメンバーシップ型社会と呼ばれます。

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解雇制限/定年制

ジョブ型社会では、企業が労働者を必要としなくなれば解雇するのが原則です。ヨーロッパ諸国では解雇権は制限されていますが、景気変動に伴う労働力の調整は認められています。

これに対して、日本においては、労働者個人の能力や行為を理由とする普通解雇よりも、職務の消滅を理由とする整理解雇の方が厳しく制限されています(整理解雇の4要件)。

解雇をできる限り回避する一方で、労働者を一律に企業から排除する仕組み定年制です。年功序列賃金制度による労働コストの高まりを抑えるための制度です。

定年までの雇用は確保されるという安心感を与えるので、労働者側にも受け入れられています。

整理解雇規制や定年制は、長い間、日本社会における長期雇用の安定に貢献してきたと言えます。

 

しかし、逆に言うと、人材の流動化が起こりにくいということになるので、国際競争力を高めるために必要な、ドラスティックな産業構造の転換がおこりにくくなっているとも言われています。

定期人事異動

日本では、労働者は定期的に職務を変わっていくことが原則となっています。いつどこでどのように働くかは、使用者の命令によって決まります。

ジョブローテーションによって、企業のさまざまな職務を経験し、熟練していくことが求められています。

これは逆に言えば、労働者が特定分野の専門家になりにくいということですから、他の企業に転職しようとすれば不利な条件になります。

ジョブ型社会では、同一の職務の中で上に昇進していくのが一般的です。そして、特定の職務に熟練することによってより高い賃金で他の企業に転職することが可能になります。

ジョブローテーション制は、大企業だけでなく、中小企業でも広く取り入れられています。

 

例えば、新卒で入社した後に、総務部 → 営業部 → 調達部 → システム部 といった具合に、数年おきに配置転換・転勤を繰り返してくわけです。

 

しかし、私の経験では、どこの企業でも、次々と繰り返される異動に対応できないまま、何の専門性も持たない管理職になってしまっている人が、少なからずいました。

 

また、ある程度の年齢に達した銀行員が、融資先や出資先の企業への出向を繰り返すケースがありますが、この場合も同様です。

 

銀行員は出向する会社ごとに担当業務が変わっていくが、対応能力が不足していてその場しのぎの仕事しかできず、受け入れる企業側が持て余してしまう、というケースが多く見られます。

 

ジョブローテーションを繰り返しても、ゼネラリストとして十分なレベルにまで達する人材がごく一部にとどまってしまっているということが、日本型雇用システムが抱える問題の一つと言えるでしょう。


教育訓練

日本では、新卒採用と定期人事異動という制度の性質上、その職務には未経験で熟練していない者を配置することが多くなりますので、企業内教育訓練が重要になってきます。やり方としては、実際に職務につかせて作業をさせながら技能を習得するOJT(On the Job Training)が一般的です。

ジョブ型社会では、労働者が希望の職務に就くためには、その前に自ら企業外部で教育訓練を受けて職業能力を身につけることが必要となります。

優良企業では、OJTの他、階層別教育(例:部長研修)や外部研修の仕組みが整っている会社が多いですが、

 

経営に余裕がない中小企業では、OJTをする際の手順書・引継書すら整っておらず、階層別教育などのOff-JT体制は未整備、という会社もけっこうあります。

人事査定とその他の特徴

年功序列賃金制度は、具体的には定期昇給制によって成り立っています。ただし、賃金昇給額は一律ではありません。

日本の特徴は、ブルーカラー労働者に対しても人事査定が行われる点、評価の高低により労働者ごとの昇給額が異なる点にあります。

査定されるのは、職務における成果だけではありません。職務遂行能力・意欲・努力といった主観的な要素、いわば忠誠心も重要な要素になっています。

ジョブ型社会では通常、ブルーカラー労働者は人事査定の対象ではありません職務と技能水準により賃金が決められるのです。

そのほか、年2回支給される多額のボーナス、長期勤続者を優遇する退職金制度、住居・食事・娯楽といった福利厚生制度も、日本の特徴となっています。

 

まとめ

2022年1月に、日立製作所が「ジョブ型雇用」の適用を全従業員に広げるというニュースが流れました。

今後は、全従業員に対し、職務の内容と必要なスキルなどが記載されたジョブ・ディスクリプション(職務記述書)を明示し、それに見合った人材を配置していくことになるようです。

日立製作所の他、富士通、資生堂、NTT、KDDIなど大手企業が、メンバーシップ型の弱点を克服し、グローバル規模での競争力強化という経営戦略を実現するために、ジョブ型人事制度の導入を公表しています。

しかしながら、日本型雇用システムは、上記に述べたように、新卒一括採用・定年制・解雇制限・人事異動、退職金そして判例法理などと相まって成り立っているため、そう簡単にそのシステムを変えることができるとは思えません。

本当の意味のジョブ型人事制度に転換できるかどうかは、今後の各社の運用を見守っていく必要があるでしょう。

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