ストア派は、ゼノン(前335‐前263)によって創始された学派です。
ゼノンはキプロス島のキティオンに生まれ、アテネで哲学を学び、やがてストア派を形成しました。
ゼノンは、アテネのアゴラ北西にあった、彩色柱廊(ストア・ポイキレー)と呼ばれる、壁画のある柱廊で講義を行ったので、彼の学派はストア派と呼ばれるようになりました。
ストア派の思想
神の理性(ロゴス)
ストア派の神論は汎神論的ですが、同時に人格神的な要素も混入しています。
宇宙=世界=自然は、神が理性(ロゴス)にしたがって自己展開することで創造されたものです。
自然を構成するさまざまな要素には、神の理性が分有されています。
そして、自然の一部である人間にも、神の理性が分け与えられています。
したがって、人間の本性は理性であるので、理性にしたがい、自然と調和して生きることが望ましいものとされます。
ゼノンはストア派の生活信条として、「自然にしたがって生きる」ことを唱えました。
世界市民主義(cosmopolitanism)
ヘレニズム時代には、ギリシア人のポリス(都市国家)が没落し、人々は世界の中に個人として投げ出されたため、国家や民族の枠を超えた普遍的な世界国家(cosmopolis)に生きる個人としての自覚が生まれました。
そのような中、ストア派のゼノンは、「世界は神が理性(ロゴス)にしたがって自己展開したものであり、その神の理性を分有している人間は、すべて世界に生きる同胞、世界市民(cosmopolites)である」という考え方を唱えました(世界市民主義)。
世界市民主義は、ローマ帝国の時代になってから、ローマ市民のみならず属州民を含む全自由民に適用されたローマ法(万民法)に影響を与えました。
さらに、人間は生まれながらに平等であるとする近代の自然法にも影響を与えました。
禁欲主義
ストア派は、世界を秩序づける理性(ロゴス)にしたがって生きるために、感情や欲望(パトス)に動かされない禁欲主義を唱えました。
アパテイア(不動心)
アパテイア(apatheia)とは、情念(パトス)に心を乱されないことを意味し、ストア派が賢者の境地としたものです。
否定を表す接頭語(a)と、パトス(pathos)からなり、情念のない状態を指します。
パトスは、外界の影響によって心が動揺することから生まれるので、そのようなことから距離を取って無関心の態度を取り、感情に心を動かされず、自律的な意志をもち、理性(ロゴス)にしたがって生きることが、ストア派の唱える理想の境地なのです。
ストア派の思想家
ゼノンに始まったストア派の歴史は500年ほど続きました。その間、さまざまな哲学者・思想家が輩出されました。
キケロ
キケロ(前106年‐前43年)は、ローマ時代の弁論家・政治家・哲学者です。
前45年にカエサルが実権を握ると政界から退けられ、政界引退後に哲学的な著作を書き残しました。
カエサル暗殺後、政争の中でキケロもまた暗殺されました。
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セネカ
セネカ(前5頃~後65)はスペインのコルドバに生まれ、ローマで哲学や弁論術を学びました。
ネロ(37~68)の家庭教師になり、ネロが皇帝に就任(位:54‐68)すると政治顧問になりました。
ネロ帝の暴政から身を守るために引退しましたが、その後自害に追い込まれました。
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エピクテトス
エピクテトス(55頃‐135頃)は小アジア半島のヒエラポリスに生まれ、ローマで奴隷として暮らしました。
哲学を学び、奴隷から解放されたのちに、自らの学園を開きました。
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マルクス=アウレリウス=アントニヌス
マルクス=アウレリウス=アントニヌス(121‐180)はローマ帝国の五賢帝の最後の一人(位:161‐180)で、ストア派の哲学を学びました。
万物は絶えず変化流動し、名誉も記憶もすべてが忘却される無情な時の流れの中で、その世界を動かしている神の理性を信じ、与えられた運命を受け入れ、自己の義務を誠実に果たすところに生きる道を見いだしました。
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ストア派の哲学者の著作は、現在にも通じる人生訓がたくさん記されている作品ばかりです。