C・G・ユング(1875‐1961)は、スイス出身の心理学者・精神分析学者です。
1907年、フロイト(1856‐1939)の『夢判断』を読んで感銘したユングは、フロイトのもとを訪れました。
フロイトと意気投合したユングは、フロイトの協力者として共に研究をおこない、精神分析学の発展に努めました。
1910年には、フロイトはユングを、設立された国際精神分析学会の初代会長に就任させました。
しかし、しだいに2人の考え方の隔たりが大きくなり、1914年にユングは会長を辞任し協会もやめてしまい、独自の道を歩むことになりました。
集合的無意識
集合的無意識とは、人類が太古から繰り返してきた無数の体験が積み重なってできた、普遍的なイメージをもつ無意識の領域のことです。
ユングは、人間の夢や妄想の中に、神話や伝説と共通の基本パターンがあることを発見し、
心の中には、個人の体験に基づく個人的無意識のほかに、遺伝で伝えられる人類共通の集合的無意識があると考えました。
分析心理学
ユングは、人間の心には個人的無意識のほかに、集合的無意識があると考え、無意識を個人の過去の体験から解釈するフロイトの精神分析学を批判しました。
そして、個人的無意識と集合的無意識の両方を含む、人間の心の全体像を解明する分析心理学を確立しました。
元型
すべての人類の心の奥底にある集合的無意識の普遍的な型(タイプ)のことを、元型といいます。アーキタイプス(archetypes)ともいいます。
心に潜む元型的なイメージは、時代や民族を超えてすべての人類の神話・昔話・芸術・宗教・夢などに共通して現れます。
元型には、影(シャドウ)、アニマ、アニムス、グレート・マザー、老賢人などの種類があります。
影(シャドウ)
影の内容は、その個人の意識によって生きられなかった反面、その個人が許容しがたいとしている心的内容です。
それは文字どおり、その人の暗い影の部分をなしています。
私たちの意識は、一種の価値体系をもっており、その体系と相容れないものは無意識化に抑圧しようとする傾向があります。
たとえば、子どもの時から攻撃的なことをしないように、おとなしく育てられてきた人にとって、少しでも攻撃的なことは、その意識体系をおびやかすものとして、すべて悪いこととして斥けられます。
この場合、その人の影は、非常に攻撃的な性質をもったものとなります。
アニマ
アニマは、男性の無意識の奥に潜んでいる永遠の女性のイメージです。
アニマは男性にとって、やさしさを表すエロス的なものであり、心の導き手のようなものです。
アニムス
アニムスは、女性の心の中に眠っている男性のイメージです。
グレート・マザー
グレート・マザーは、すべてを包み込む慈愛の母のイメージです。
老賢者
老賢者は、経験の積み重ねによる知恵や理性、賢明な判断によって特徴づけられる老いた男性のイメージです。父親元型でもあります。
性格類型 ―外向型と内向型
ユングは、人間の心のエネルギー(リビドー)が向かう方向性によって、性格類型を外向型と内向型に分類しました。
外向型
外に心のエネルギーが向かう外向型は、社交的で交際範囲が広く、陽気でこだわりがなく、リーダーシップをとり、活動的で決断力があります。
その一方で、あきやすく、移り気であるという特徴をもちます。
内向型
内側に心のエネルギーが向かう内向型は、控えめで慎重、自分の心の内面を掘り下げ、じっくりと物事を考えます。
その一方で、適応力や実行力に欠け、人とのつきあいが苦手で交際範囲は狭い。しかし、いったん交際すると深い人間関係をつくるという特徴があります。
ユングが与えた影響
アメリカの神話学者ジョーゼフ・キャンベル(1904‐87)は、ユング心理学を基調にして、『千の顔をもつ英雄』という著作で、世界中の英雄神話に共通する物語の母型を明らかにしました。