クリストファー・ホグラーは、デイビッド・マッケナとの共著『物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術』(2013)において、ヒーローズジャーニー(英雄の旅)の物語モデルを紹介しています。
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ヒーローズジャーニー(英雄の旅)の12ステージ
クリストファー・ホグラーは、アメリカの神話学者ジョーゼフ・キャンベル(1904‐87)の英雄神話の構造論を、12ステージによる基本パターンにまとめ直しました。
別の記事『千の顔をもつ英雄』 英雄神話の構造を『天空の城ラピュタ』で確認では、宮崎駿監督の映画『天空の城ラピュタ』の主人公パズーの行動を例にしながら英雄神話の構造を説明しましたが、
この記事では、『千と千尋の神隠し』の主人公千尋の行動を例にしながら説明します。
(ストーリーの詳細の紹介は省略します。)
1.日常世界
主人公が〈日常世界〉にいるところが紹介されます。
- 千尋は両親と共に引っ越し先の新しい家に向かっていました。
- 千尋の父親が運転する車は山道に入り込み、トンネルの前にある石像で行き止まります。
2.冒険への誘い
外部からの圧力あるいは内部からの何らかの衝動により、主人公は変化のはじまりに直面させられます。
- 千尋の両親は、行き止まりで車を降り、その先にあるトンネルを抜けて、どんどん奥深くに足を踏み入れるのでした。千尋はいやいやそのあとをついて行きます。
3.冒険の拒否
主人公は未知への恐怖に直面し、最初は冒険から逃れようとします。
- 商店街の屋台の食べ物を勝手に食べ始めた両親は、いつのまにか豚にされてしまいます。
- 千尋は恐怖で見知らぬ町から逃げ出そうと、先ほど来た道を逃げ戻りますが、道の前には、いつの間にか大きな河が横たわっており、帰ることができません。
4.賢者との出会い
主人公は人生経験豊富な賢者と出会い、訓練や必要な道具、旅の助けになる助言などを受けます。
- 妖怪のような化物たちを見てパニックになっていた千尋のもとにハクが現れ、この世界で生き残るために湯屋で働くようにアドバイスしてくれました。
5.戸口の通過
主人公はなじみのない決まり事や別の価値観の存在する〈特別な世界〉に入っていきます。
- 千尋はハクの指示通りに湯屋のボイラー室を訪れます。
- ボイラー室を仕切る釜爺は、リンに案内させ、千尋を湯婆婆のもとに送り届けてくれました。
- 湯婆婆は、千尋の熱意に負け、契約を結んで、湯屋で千尋を働かせることにしましたが、千尋の名前を「千」に変えてしまいました。
- ハクもまた、湯婆婆から名前を奪われて、湯婆婆ものもとで働いていました。
6.試練、仲間、敵
主人公は〈特別な世界〉で、仲間や敵を作り、訓練の一環として試練や挑戦を乗り越えていきます。
- 千尋は湯屋で一生懸命働きました。湯屋の外にいるカオナシを見つけた千尋は、カオナシを湯屋の中に導き入れてしまいました。
- ある時、クサレ神が湯屋の客としてやってきて、千尋が応対します。千尋が懇切丁寧にもてなした結果、お客の心身は浄化されます。
- クサレ神と思われた客は、実は名のある河の神であることがわかりました。河の神は千尋に苦団子をプレゼントし、風呂場に砂金を残して帰っていきました。
7.最も危険な場所への接近
主人公と新たに見つけた仲間が、〈特別な世界〉での最大の試練に向け、準備を整えます。
- 千尋は湯婆婆の部屋で傷だらけになり今にも息が絶えそうな竜の姿のハクを見つけます。
- そこへ湯婆婆の双子の姉妹である銭婆がやってきました。
- 銭婆は、ハクが銭婆の大切なハンコを盗んだことと、ハクは湯婆婆との契約で魔法の力を手に入れたということを千尋に教えるのでした。
- 千尋と瀕死のハクは、釜爺のもとにたどり着きました。
- 千尋は河の神からもらった苦団子を半分に割ってハクに食べさせます。すると、ハクはハンコとともに黒い生き物も吐き出し、千尋はその生き物を踏みつぶして、ハクは一命を取り留めました。
- 千尋は銭婆のもとにハンコを返しに行き、ハクの代わりに謝罪しに行くことを決意します。
8.最大の試練
主人公は〈特別な世界〉の中心に入っていき、死、もしくは最大の恐怖に直面します。
- 千尋は、従業員を3人も飲み込んだカオナシの接待をします。
- 千尋は残りの苦団子をカオナシに食べさせます。カオナシは苦しみ出し、嘔吐を繰り返し、従業員を吐き出しながら、千尋を追いかけます。
- 千尋は弱ったカオナシを連れて、帰ってきた者がいないという片道電車に乗り、銭婆のもとに向かいました。
9.報酬
主人公は死や恐怖と直面して勝ち取った宝を手にします。
- 銭婆は千尋達を優しく招き入れ、ハンコを受け取りました。そして、ハクが吐き出した黒い生き物は、湯婆婆がハクにかけた魔法だと千尋に教えました。
- 千尋は帰り際、銭婆から髪留めをもらい、それで髪を束ねました。
- 銭婆の家に、竜の姿のハクが千尋を迎えにやってきました。
- 千尋は、銭婆とカオナシに別れを告げて、竜の姿のハクに乗り、湯屋へ向けて飛び立ちました。
10.帰路
主人公は〈特別な世界〉を去り、宝を持って故郷に引き返します。
- ハクの背中に乗って空を飛んでいた千尋は、幼いころ、「コハク川」という川で溺れたときのことを思い出し、ハクに「あなたの本当の名前はコハク川」と伝えます。
- すると、竜のうろこがみるみるうちに剥がれ、ハクは人間の姿に戻りました。ハクは自分の本当の名前を思い出したのです。
11.復活
主人公は故郷への戸口で再び厳しい試練に直面して生き返ります。
- 湯婆婆は、ハクとの約束通り千尋を人間の世界に戻すことにしますが、千尋に条件をつけました。それは、目の前にいるたくさんの豚たちの中から、両親を見つけ出すことでした。
- 千尋は豚たちを見つめた後「ここにはお父さんもお母さんもいない」と答えます。するとその瞬間、千尋が書いた湯屋との契約書が破られ、千尋は自由の身になりました。
- 千尋はいつか会おうと約束してハクと分かれました。
12.宝を持っての帰還
主人公は霊薬や宝、あるいは〈特別な世界〉で学んだ教訓を持ち帰り、日常世界に戻ってきます。
- 千尋はトンネルの前で人間の姿に戻った両親に再会します。
- 両親は何も覚えておらず、何事もなかったかのように3人でトンネルを戻りました。
- 千尋が振り返ってトンネルを見つめたときに、銭婆からもらった髪留めがキラリと光りました。
まとめ
クリストファー・ホグラーは、英雄神話の物語の構造を、
「1.日常世界」→「2.冒険への誘い」→「3.冒険の拒否」→「4.賢者との出会い」→「5.戸口の通過」→「6.試練、仲間、敵」→「7.最も危険な場所への接近」→「8.最大の試練」→「9.報酬」→「10.帰路」→「11.復活」→「12.宝を持っての帰還」
という「12ステージによる基本パターン」にまとめました。
昔話や童話、マンガ、ドラマなど、さまざまな物語のストーリーを追ってみると、「12ステージによる基本パターン」に当てはまる物語が、神話の他にもたくさんあることがわかります。
この記事では、例として『千と千尋の神隠し』を取り上げて、英雄神話の基本パターンを説明しました。
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