『オデュッセイア』は、トロイア戦争の勝利の後に、オデュッセウスが、10年間の漂泊を経て故郷に帰還するまでの冒険を描いた、ホメロスの叙事詩です。
時系列に従って、オデュッセイアのあらすじを記します。
あらすじ
ロトパゴス人の国
トロイア戦争後、オデュッセウスの船団は、故郷に向かって航海をしていましたが、ゼウスが呼び起こした嵐により10日漂流したのち、ロトパゴス人の国にたどり着きました。
ロトパゴスとは、ロトスを食べる人、という意味です。
ロトスは、それを食べるとすべての記憶を失い、恍惚状態に陥り、そればかり食べ続けたいという気持ちにさせてしまうという、不思議な果実でした。
オデュッセウスの部下3人は、ロトパゴス人にロトスをもらって食べてしまったため、航海に戻るのを嫌がりました。
そこで、オデュッセウスたちは、嫌がる部下を無理やり船に連れ帰り、早々に出航しました。
キュクロプスの島
つづいて一行は、無法者の一つ眼巨人、キュクロプスたちが住む島に上陸します。
オデュッセウスと部下は、キュクロプスが暮らす洞窟に忍び込みました。しかし、しばらくたって洞窟に戻ってきた住人ポリュペモスに、隠れているのが見つかってしまいました。
そして、部下2人がポリュペモスに食べられ、残りの者も洞窟に閉じ込められてしまいました。
奸智にたけたオデュッセウスは、うまく酒を飲ませてポリュペモスを眠らせたのち、先を尖らせた丸太でポリュペモスの眼をつぶしました。
ポリュペモスの悲鳴を聞きつけ、仲間のキュクロプスが何事かとやってきましたが、オデュッセウスたちはうまく隠れてやり過ごし、無事に島を脱出することができました。
しかし、眼をつぶされたポリュペモスは、実は海の大神ポセイドンの息子だったのです。ポリュペモスは父親ポセイドンにオデュッセウスへの仕返しを願いました。
そのため、オデュッセウスは、まっすぐ故郷に帰ることはできず、長年にわたり、海の上を漂流する運命を背負わされてしまったのでした。
アイオロスの島
次にたどり着いたのが、風の神アイオロスの島でした。アイオロスは、オデュッセウスたちを歓待してくれました。
そして、出航の時に、悪い風を閉じ込めた袋を持たせてくれました。この袋を持っていれば、イタケ島に向かう西風しか吹かないということでした。
出航したあと、アイオロスの袋のおかけで無事に航海はつづき、10日目には、故郷のイタケ島が見渡せるところにまで達しました。
しかし、安心したオデュッセウスは、ここでうたた寝をしてしまいした。この時、部下たちは、オデュッセウスが大事に抱えている袋の中身が気になり、開けてしまったのです。
たちまち暴風が吹き荒れ、再びアイオロスの島の海域まで押し戻されてしまいました。
オデュッセウスは、もう一度力を貸してほしいとアイオロスにお願いしましたが、怒ったアイオロスはもう助けてくれませんでした。
ライストリュゴネスの国
風の力を失ったオデュッセウスの船団は、自分たちで舵を漕いで海を進み、やがてライストリュゴネスという巨人族が治める国に到着しました。
オデュッセウスの部下3人が上陸し、この国の王様のもとを訪ねて拝謁しましたが、突然、王アンティパテスは、オデュッセウスの部下の1人を食べてしまいました。
残りの2人は驚いて逃げ出しました。
すぐに出航しようとしましたが、巨人たちが巨大な石を岩山からもぎ取って、オデュッセウスの船団に向かって投げました。
オデュッセウスが乗った船だけは何とか助かりましたが、他の船は沈められてしまいました。
魔女キルケの島
オデュッセウス一行は、アイアイエ島に上陸しました。そこには魔女のキルケが暮らしていました。
オデュッセウスの部下たちがキルケを訪問すると、キルケは料理をふるまってくれました。
しかし、料理の中には魔法の薬草が仕込まれていました。部下たちは、魔法の力で豚に変えられて豚小屋に放り込まれてしまいました。
オデュッセウスは、直前にヘルメス神にもらった解毒薬を飲んでいたので、豚にされずにすみました。そして、キルケを脅かして、部下たちを元の姿に戻させました。
キルケは勇敢なオデュッセウスに惚れ込み、2人は仲良くなりました。一行は1年ほどアイアイエ島に滞在することになりました。
冥界
オデュッセウス一行は、キルケのアドバイスに従って、予言者テイレシアスの霊に会うために、冥界へ行きました。
そして、無事に帰郷についての宣託を受けることができました。冥界では、テイレシアスだけでなく、母やアガメムノンなど、さまざまな霊が集まってきていました。
一度アイアイエ島に戻ってから、改めてキルケの助言をもらい、次の航海に出発しました。
怪鳥セイレーン
オデュッセウス一行は、怪鳥セイレーンが出現する海域に到達しました。
セイレーンは、上半身が人間の女性で下半身が鳥の姿をしているという怪鳥で、美しい歌声で航海者を惑わせ、船を難破させると言われていました。
オデュッセウスは、キルケの助言にしたがい、部下たちに耳栓をさせました。
一方で、自分はどうしてもセイレーンの歌が聞きたかったため、部下たちに自分をマストに縛らせ、何があっても解くなと命令しました。
オデュッセウスは、セイレーンの蠱惑的な歌声を聞いて、縄をほどこうと暴れましたが、頑丈に縛られていたので、何とか無事に海域を通り過ぎることができました。
☆スターバックスのロゴはセイレーン
セイレーンはギリシア神話では半人半鳥の姿として描写されましたが、中世以降は半人半鳥でなく、人魚のような半人半魚の怪物として記述されるようになりました。
スターバックスのロゴマークは、半人半魚のセイレーンを表しています。
セイレーンが魅力的な歌声で船乗りたちを誘い出したように、スターバックスは多くのお客さんに格別のコーヒーを用意することでお客さんを呼び込もう、という意思が込められています。
☆『啓蒙の弁証法』のオデュッセウス論
フランクフルト学派のホルクハイマー(1895‐1973)とアドルノ(1903‐69)は、『啓蒙の弁証法』の中で、セイレーンの誘惑を乗り切るオデュッセウスについて論じています。
スキュラとカリュブディス
つづいて、スキュラとカリュブディスという怪物が棲む海峡にさしかかりました。
スキュラは、上半身は美しい女性で、腰から下は3列に並んだ歯を持つ6つの犬の頭と12本の犬の足が生えているという怪物で、カリュブディスは、海に大渦を巻き起こす怪物です。
スキュラの近くを通り過ぎると6人が犠牲になり、一方、カリュブディスの海域を通り過ぎると全員が死ぬといいます。狭い海峡なので、どちらかの縄張りを通らなくてななりません。
オデュッセウス一行はスキュラのそばを、多くの部下を失いながら通り過ごしました。
トリナキエ島
その後オデュッセウス一行は、トリナキエ島にたどり着きました。その島には、太陽神ヘリオスが所有する牛や羊が放たれていました。
オデュッセウスは、この島の動物たちは太陽神のものだから取ってはいけないと、部下に言い聞かせました。
ところが、部下たちはオデュッセウスがいない間に、ヘリオスの牛を食べてしまいました。
この行為は、当然、太陽神ヘリオスの怒りを買いました。オデュッセウス一行の船は、島を出てからすぐにゼウスの激しい雷に打たれ、船は沈んでしまいました。
オデュッセウスはマストの切れ端につかまり、漂流しました。
カリュプソの島
オデュッセウスは10日ほど漂流したのち、オギュギエ島に流れ着きました。ニンフのカリュプソは、オデュッセウスを自分の住まいに連れていき、歓待しました。
カリュプソはオデュッセウスに惚れ込み、かいがいしく世話をしました。そして、オデュッセウスとカリュプソは、一緒に暮らすことになりました。
それから8年後に、オギュギエ島をあとにし、再び航海に出たオデュッセウスでしたが、今度はポセイドンの起こした嵐に遭い、船は転覆してしまいました。
パイエケス人のナウシカ
オデュッセウスは、裸の状態でスケリア島に漂着しました。
パイエケス人の王女ナウシカは、侍女たちと海辺で球遊びをしているときに、目覚めたオデュッセウスと出会いました。
侍女たちは彼を恐れて逃げてしまいましたが、ナウシカは凛として対応しました。
ナウシカはオデュッセウスを王宮に案内し、身だしなみを整えさせました。父王アルキノオスは、オデュッセウスがこのままとどまり、ナウシカを妻としてくれればよいと考えました。ナウシカもまたオデュッセウスに好意を抱きました。
しかし、オデュッセウスの冒険譚を聞き、妻ペネロペが待つイタケ島へ帰りたがっていることを知った一同は、オデュッセウスをパイアキア人の船に乗せ、イタケへと送り出しました。
☆風の谷のナウシカの名前の由来
宮崎駿監督の作品『風の谷のナウシカ』の主人公ナウシカの名前は、上述のパイエケス人の王女ナウシカから採られています。
〔関連記事〕【本紹介】宮崎駿『出発点』(徳間書店 1996)
イタケ島への帰還
オデュッセウスは、10年以上かかってようやくイタケ島に到着しました。
しかし、イタケではオデュッセウスはすでに死んだものとされ、妻のペネロペが多くの者たちに求婚を迫れれていること、それから、その求婚者たちがオデュッセウスの邸宅を占領していることを、アテナ神から知らされます。
オデュッセウスは、アテナの魔法で乞食の老人に変装して、求婚者たちの中に紛れ込みました。
ペネロペは、求婚者たちに返事を迫られましたが、義父の服を織ってから求婚者を決めると言い張り、昼になると織物をし、夜になるとその日織った分をこっそりほどくことで時間を稼ぎました。
しかし、その手の内はバレてしまいました。ペネロペは、求婚者を決めざるを得ない状況に追い込まれました。
ペネロペは、同じ場所に穴が開いた斧を12本、一列に並べさせました。そして「この斧に開いた穴を、弓矢で一気に射通させた人に、私は嫁ぎます」といいました。
求婚者たちは誰一人成功することはできませんでしたが、最後に変装したオデュッセウスが見事に射通しました。
オデュッセウスは、求婚者たちを全員殺しました。そして、その後、求職者たちの親族による反乱も鎮め、ようやくイタケに平和を取り戻しました。
後の時代への影響
・セイレーンは、スターバックスのロゴとして使用されています(上記参照)。
・パイエケス人のナウシカは、宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』の名前として用いられました(上記参照)。
・魔女キルケがオデュッセウスの部下たちを豚に変えるシーンは、宮崎駿監督の映画『千と千尋の神隠し』において、湯婆婆が千尋の両親を豚の姿に変えてしまったというエピソードを彷彿とさせます。
・フランクフルト学派のホルクハイマー(1895‐1973)とアドルノ(1903‐69)は、『啓蒙の弁証法』の中で、オデュッセウスについて論じています(上記参照)。
・アイルランドの作家ジェイムズ・ジョイス(1882‐1941)は、『オデュッセイア』に多大な影響を受け、小説『ユリシーズ』を執筆しました。ユリシーズ(Ulysses)は、オデュッセウスのラテン語系の英語名です。
・スタンリー・キューブリック(1928‐99)の映画『2001年宇宙の旅』(1968)の原題は「2001: A Space Odyssey」です。Odysseyは、オデュッセイアの英語名です。
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