アリストテレスの哲学 概略

アリストテレス(前384‐前322)は、古代ギリシアの哲学者で、形而上学・倫理学・論理学・政治学・詩学・天文学・生物学など、さまざまな分野の学問の基礎を確立し、万学の祖と呼ばれています。

アリストテレスの生涯

アリストテレスは、ギリシア東北部のマケドニアのスタゲイロスに生まれました。代々医者の家系で、父はマケドニア王の侍医でした。

17歳のときにアテネに出て、プラトン(前427‐前347)の学園アカデメイアに入学しました。

20年間学問の研究をつづけましたが、プラトンのイデア論にはしだいに批判的になりました。

プラトンの死後は、アテネを去って各地を遍歴しました。

40歳の頃には、マケドニア王フィリッポス2世に招かれ、当時13歳だったアレクサンドロスの家庭教師を務めました。

やがて、アテネの郊外に、研究機関であるリュケイオンを開きました。

アリストテレスは、リュケイオン周辺の並木道を弟子たちと散歩しながら講義をしたので、アリストテレスの一派は、逍遥学派ペリパトス学派)と呼ばれるようになりました。

アレクサンドロスの死後、アテネに反マケドニア運動がおこり、大王と縁の深かったアリストテレスは、難を逃れるためにアテネを去り、その翌年、カルキスで死去しました。

形相と質料

プラトン(前427‐前347)は個々の事物をこえた超越的な本質をイデアと呼び、イデア界が存在することを主張しましたが、アリストテレスはイデア論を否定しました。

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アリストテレスは、現実に存在するのは個々の事物だけであり、個々の事物は、それが何であるかを規定する形相エイドス)と、素材となる質料ヒュレー)から成り立つと述べました。

形相は質料に内在しており、事物の生成変化を通じて自己を実現していきます。

このとき、形相が質料の中に将来実現される可能性として内在している状態を可能態デュナミス)といい、その形相が実現した状態を現実態エネルゲイア)といいます。

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四原因説

アリストテレスは、現実の個物を成り立たせている原因や根拠を4つに分類しました(四原因説)。

①事物の本質(形相因)、②事物の素材(質料因)、③事物を変化させる原因(始動因)、④事物が目指す目的(目的因)の4つです。

「机」に例えると、机の設計図が「形相因」であり、机の材料となる材木が「質料因」。さらに、大工による加工が「始動因」で、勉強するためというのが「目的因」ということになります。

アリストテレスは、徳を知性の理性的な働きをよくする知性的徳と、行動・態度・感情をよくする習慣的徳の2つに分けました。

知性的徳

知性的徳とは、教育によって獲得される、知性の働きのよさに関わる徳のことです。

知性的徳の例

  • テオリア(theoria):真理をロゴスによって純粋に考察する観想
  • エピステーメー(episteme):学問によって得られる知識
  • ヌース(nus):原理を直観的に把握する知性
  • ソフィア(sophia):学問や直観をあわせ持ち、物事の原因や原理を求める知恵
  • フロネーシス(phronesis):行動の適切さ(中庸)を判断する思慮
  • テクネ―(techne):制作に関わる技術

観想(テオリア)

観想テオリア)とは、実用的な目的を離れ、真理を純粋に考察することです。

アリストテレスは、人間の最もすぐれた能力である理性を働かせて、真理を追い求める観想的生活こそが、人間にとって最高の幸福であり、最高善であるとしました。

習性的徳(倫理的徳)

習性的徳倫理的徳)とは、人間の行動や態度の善さに関わる徳のことです。

習性的徳は、様々な感情や欲求において、過度や不足の両極端を避けて中庸(メソテース mesotes)を選ぶ習慣を身につけることによって形成されます。

習性的徳には、友愛・正義・勇気・節制・機知・誇り・気前のよさなどがあります。

中庸の例

  • 無謀と臆病の中庸である勇気
  • 放縦と禁欲の中庸である節制
  • 道化と野暮の中庸である機知
  • 卑屈と虚栄の中庸である誇り
  • ケチと浪費の中庸である気前のよさ

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正義論

アリストテレスは、習性的徳の一つとして、正義を重んじました。

正義は、全ての市民がポリスの法を守ることを意味する全体的正義と、社会において公平を実現させるため部分的正義に分けられます。

部分的正義はさらに、個人の能力や業績に応じて財産や地位を正しく配分する配分的正義と、法を各人に一律に適用して利害の調整を図る調整的正義に分けられます。

国家論

アリストテレスは、ポリスの政治形態を、支配者が1人であるか、少数であるか、多数であるかによって、それぞれ ①君主政治、②貴族政治、③共和政治 に分類しました。

そして、①~③の堕落した政治形態を、④独裁政治僭主政治)、⑤寡頭政治、衆愚政治 と呼びました。

アリストテレスはこのうち、ポリスの市民が参加する制度である共和政治が、もっとも安定度が高い政治形態であると述べました。

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