ソクラテスの哲学 概略

ソクラテス(前469頃‐前399)は、古代ギリシアのアテネの哲学者で、倫理学の創始者とされています。

父ソプロニコスは石工で彫刻を生業とし、母パイナレテは助産師だったと伝えられています。

ソクラテス自身は著作を残しませんでしたが、その思想は、プラトン(前427年-前347年)の対話篇やクセノフォン(前430‐前354)の『ソクラテスの思い出』によって知ることができます。

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無知の知

ソクラテスが40歳のころ、友人のカイレフォンデルフォイの神殿で「ソクラテスより知恵のある者はいない」という神託を受けました。

カイレフォンからそれを聞いたソクラテスは、その神託を信じられませんでした。自分ほど無知な者はいないと、常日頃から考えていたからです。

そこでソクラテスは、アテネで賢者とされている者(政治家・詩人・職人)のもとを訪れ、彼らに対して哲学的な問いかけをしてみることにしました。

賢者たちの意見を聞けば、自分より知恵のある者はいないという神託が間違っていることが分かると思ったからです。

ところが賢者たちは、ソクラテスが「正義とは何か」「美とは何か」と尋ねても、誰一人としてうまく答えることはできませんでした。

ソクラテスは、彼らが「知らないのに何かを知っているかのように思い込んでいる」ことに気づきました。

そして、自らの無知について自覚している(=無知の知)自分の方が知恵のあることを悟りました。

問答法

ソクラテスは、相手の答えと矛盾する事例をあげてその論拠をつき崩し、相手に無知を自覚させて、それを出発点にしてより高い次元の考え方へと導き、徳とは何か、正義とは何か、などについての答えを相手に見出させました。

このようなソクラテスの真理の探究方法を、問答法と言います。

これは、相手に自分の考え方を銀蒸させて、相手が真理を見いだすのを手伝う方法なので、助産術とも呼ばれます。

ソクラテスは問答をすすめる方法として、しばしばエイロネイア(古希 eirōneia:知らないふり)を用いました。エイロネイアは、アイロニー(英 irony:皮肉)の語源となった単語です。

これは、ソクラテスが無知をよそおって質問を投げかけ、相手に自分の考え方に矛盾があると気づかせることによって、無知を自覚させるやり方です。

善く生きる

ソクラテスは、ただ生きるのではなく、善く生きることが重要だと主張しました。

善く生きるとは、魂(プシュケー)の善さを求めて生きることです。

魂への配慮

ソクラテスは、魂をできるだけ善いものにすること(=魂への配慮)が必要だと説きました。

主知主義

善く生きるためには、徳(アレテー)について知る必要があります。徳とは魂にそなわるすぐれた性質のことです。ソクラテスの知ることを重視する姿勢を、主知主義といいます。

知徳合一

徳が何かを知れば、徳についての知識に基づいて誰でも正しい生き方へと導かれるというソクラテスの考えを、知徳合一といいます。

知行合一

徳が何であるかを知れば、必ず正しい行いに結びつくはずであるというソクラテスの考えを、知行合一といいます。

福徳一致

徳が何であるかを知り、正しい行為をするならば幸せになれるというソクラテスの考えを、福徳一致といいます。

ソクラテスの死

ペロポネソス戦争で、アテネがスパルタに敗れてから5年後の紀元前399年、70歳のソクラテスは裁判にかけられました。

告発理由は、「国家の信奉する神々を信じず、青少年を惑わせた」というものでした。

背景には、政治の堕落へのソクラテスの厳しい批判が権力者たちに危険視されたことや、スパルタに味方してアテネを裏切ったアルキビアデス(前450年頃-前404年)や恐怖政治をおこなったクリティアス(前460年頃-前403年)がソクラテスの弟子であったことなどが挙げられます。

ソクラテスは、法廷において、告発の不当性を主張し、市民の道徳的な堕落を厳しく批判したために、陪審員の心証を悪くし、死刑を宣告されてしまいました。

親友のクリトンは獄中のソクラテスを訪れ、脱獄をすすめますが、ソクラテスはこれを拒否しました。

ソクラテスは、

「国宝を犯して脱獄することは不法なことであり、たとえ不当な判決であってもそれに従うことが市民の義務である。」

「人は不正に対して不正によって報いるべきではない。なぜなら、人はどんな場合にも不正を行ってならないのだから」

と述べて死刑判決を受け入れました。

そして3日後、自ら毒を飲み干し、死の途につきました。

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