フランシス・ベーコンの思想 概略

フランシス・ベーコン(Francis Bacon 1561-1626)は、イギリスの哲学者・政治家で、イギリス経験論の祖とされています。

自然法則を把握するための新しい学問の方法として、帰納法という考え方を提唱しました。

ベーコンの生涯

1561年、ベーコンは、ロンドンの貴族の家に生まれました。

敬虔なプロテスタントである母親の教育により、熱心なプロテスタントとして育ち、自然に囲まれた環境の中で、自然への興味に目覚めていきました。

1573年、12歳でケンブリッジ大学のトリニティ=カレッジに入学しました(中退)。さらに1576年、グレイズ=イン法学院に入学し、フランス留学を経て、1582年に弁護士の資格を取得しました。

その後、国会議員に選出され、政治家・弁護士として活躍しました。

1613年に司法長官、1618年には大法官になりましたが、1621年に賄賂を受けたとして汚職の罪に問われ、官職と地位を追われました。

晩年は隠遁して研究と著述に専念しました。

主著:『学問の進歩』(1605)、『ノヴム=オルガヌム』(1620)、『ニュー=アトランティス』(1627)

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知は力なり

ベーコンは「人間の知識と力とは合一する」と述べています。この一文は、「知は力なり」という短縮された言葉でよく知られています。

この言葉は、経験に基づく知識は自然を支配する力になるという、ベーコンの思想を表しています。

ベーコンは、抽象的な思弁ばかりをおこなうスコラ哲学を、人間の生活に何の役にも立っておらず、真の学問とは言えないと批判しました。

そして、学問の目的は、自然に対する人間の支配力を増大させ、人間の生活を向上させることにあると主張しました。

また、ベーコンは、「自然は服従することによってでなければ支配できない」とも述べています。

これは、帰納法により自然法則を正確に把握し、それを応用することによって、はじめて自然を支配することが可能となり、人間の生活を向上させることができる、ということを意味しています。

イドラ

ベーコンは、物事を正しく認識することを妨げる偏見や先入観のことをイドラ(羅:idola 幻影・偶像)と呼び、イドラを排除しなければ自然法則を正確に把握することはできないと述べました。

ベーコンはイドラを4つに分類しています。

種族のイドラ

種族のイドラとは、人間という種族に共通する偏見のことです。

例えば、水面に垂直に入れた棒は、光の屈折で曲がって見えます。実際には曲がっていない棒を、視覚は曲がっているかのように見てしまいます。これを錯覚といいます。

錯覚は、人間の感覚器官(五感)に生まれつき備わったイドラなのです。

洞窟のイドラ

洞窟のイドラとは、個人の性格・教育・習慣などによって形成された偏見のことです。

プラトンの洞窟の比喩に出てくる囚人が洞窟に映る影を真実在だと思っていたように、狭い考え方や思い込みから生まれる偏見です。

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市場のイドラ

市場(いちば)のイドラとは、人間の交際する場で不適切に使用される言葉から生じる偏見です。

人々が集まる市場で、誤った噂が流れることに例えたものです。

劇場のイドラ

劇場のイドラとは、伝統や権威のある学説を無条件に信じ込んでしまうことから生じる偏見です。

劇場で演劇を見ている観客が、感情移入して登場人物と一体化し、その演劇に無批判になってしまうような態度を、劇場のイドラと呼びました。

帰納法

ベーコンは、主著『ノヴム=オルガヌム』において、イドラを取り除き、自然を正しく認識するための新しい学問の方法を提唱しました。それが帰納法です。

帰納法とは、個々の経験的事実から、それらに共通する一般的な法則を導き出す方法で、普遍的な命題から個々の結論を推理する演繹法と対照的な学問の方法です。

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