西洋思想は2500年以上の歴史をもっており、時代に即してさまざまな思想や哲学が登場しました。
西洋思想の流れ
西洋の源流思想 ~古代ギリシア哲学~
2500年以上の歴史を持つ西洋思想は、ギリシア哲学をその源流としています。
ギリシア哲学は、近代思想だけでなく、近代科学、ヨーロッパ中世哲学、あるいはイスラーム思想にも大きな影響を与えました。
哲学以前=神話的世界観
古代ギリシアでは、ギリシア哲学が登場する以前は、世界のさまざまな事象の起源を、神々の超自然的な働きによって説明していました。
紀元前8世紀末頃に、『イリアス』『オデュッセイア』の作者のホメロスや『神統記』『仕事の日』などの作者のヘシオドスが登場したと言われます。
自然哲学
小アジアのイオニア地方では、紀元前6世紀に、あらゆる自然現象の根源を探究する、最初の哲学が誕生しました。
これを自然哲学といい、タレスが「万物の根源は水である」と言ったことから始まったと言われます。
タレス以後、自然哲学者たちは、神話ではなく理性によって万物の根源や成り立ちを説明しました。
ソフィスト
アテネの民主政治の発達に伴って、思想家の関心は自然から人間社会の探究に移っていきました。
そのような状況の中、弁論術や政治的知識を教える職業的教師であるソフィストが登場しました。
ソフィストたちは不可知論や相対主義を唱え、弁論に勝つために詭弁術も用いるようになりました。その結果、アテネの民主政治や倫理観が動揺し始めました。
ソクラテス
ソクラテスはアテネの民主政治や倫理観の動揺に危機感を抱き、ただ生きるということではなく善く生きることが重要である、ということを主張しました。
ソクラテスは、紀元前5世紀に、初めて人間のモラルについて追究した哲学者でした。
プラトン
プラトンは紀元前4世紀に、イデア論を主張することにより、普遍的な真理や知を求めたソクラテスの精神を引き継ぎました。
アリストテレス
プラトンが開いた学園のアカデメイアに学んだアリストテレスは、プラトンの思想を批判的に継承しました。イデアの実在性を批判し、現実主義的な思想を展開しました。
ヘレニズム期の哲学
ヘレニズム期には、快楽主義を唱えたエピクロス派、禁欲主義を唱えたストア派、さらに、イデア論と神秘主義を結びつけた新プラトン主義という思想が現れました。紀元前3世紀のことです。
西洋の源流思想 ~ユダヤ教・キリスト教・イスラーム教~
ギリシア哲学の他のもう一つの西洋思想の源流は、キリスト教です。
キリスト教はユダヤ教から派生した宗教です。また、イスラーム教は、ユダヤ教・キリスト教の影響を受けて誕生しました。
ユダヤ教
唯一神ヤハウェを信仰する宗教です。
ヤハウェと契約を交わしたユダヤ人のみが救済されるとする選民思想や、メシア(救世主)信仰、律法の遵守を特徴としています。
ユダヤ教がいつ頃成立したのかは定かではありませんが、モーセがヤハウェと契約を交わしたとされるのは、紀元前13世紀前半頃ではないかといわれています。
キリスト教
ユダヤ教を母体として生まれた宗教です。
紀元前1世紀末にパレスチナに生まれたイエスは、ユダヤ教の選民思想や律法主義を批判し、神の絶対的な愛と隣人愛を説きましたが、対立する者たちによって捕えられ、十字架にかけられて刑死しました。
死後、弟子たちがイエスの復活を確信してその教えを広め、キリスト教が確立されました。
イスラーム教
7世紀前半に預言者ムハンマドによって開かれた宗教で、唯一神アッラーへの信仰を説いています。
イスラム教はユダヤ教やキリスト教の影響を受けています。アッラーは、アブラハム・モーセ・イエスなどの預言者に啓示をくだしてきたが、究極の教えを最後の預言者であるムハンマドに授けたとされます。
西洋の近代思想
中世ヨーロッパでは、神を絶対視し人間を罪深いものとするローマ=カトリック教会の思想が社会を支配していました。
しかし、ルネサンス以降、理性を重んじる考え方、つまり理性主義・合理主義・人間中心主義などを特徴とする近代思想が成立し、その後世界全体に広がっていきました。
そして、自然や歴史は合理的進歩するという、進歩史観の考え方が生まれました。
ルネサンス
ギリシア・ローマの古典文化の復興をめざす精神的な運動で、14世紀から16世紀にかけてイタリアを中心におこり、やがてヨーロッパ各地に広がりました。
宗教改革
16世紀にヨーロッパに広がった、ローマ=カトリック教会の腐敗を批判し、個人の純粋な信仰心に基づいて信仰を高めようとした運動です。
【関連人物】ウィクリフ、フス、ルター、カルヴァン
モラリスト
16世紀から17世紀のフランスで、自由な表現形式によって、ありのままの人間生活や心理を観察し、人間の生き方を探究した思想家のことを指します。
【関連人物】モンテーニュ、パスカル
科学革命
16世紀から17世紀にかけて、ルネサンスや宗教改革の影響を受けて、教会の影響を離れ、観察と実験にもとづいて自然や宇宙の真の姿をとらえようとした科学者たちが現れました。
科学者たちの研究により、それまでの自然科学の基盤となっていた考え方が革命的に転換され、近代科学が成立しました。これを科学革命と呼びます。
【関連人物】コペルニクス、ケプラー、ブルーノ、ガリレイ、ニュートン
経験論
人間の知識は感覚的な経験によって得ることができるという考え方を指します。
人間が何らかの生得観念(生まれながらに備わっている観念)をもっているという考えを否定します。
17世紀から18世紀にかけて、イギリスで発展した考え方なのでイギリス経験論とも言います。
合理論
人間の知識は、生まれながらにもっている理性を働かせることによって得ることができるという考えです。
経験論は人間の感覚的な経験を重視しましたが、合理論はその不確実さを指摘しました。
17世紀から18世紀にかけて、フランスなどヨーロッパ大陸の思想家によって唱えられた考え方なので、大陸合理論とも言います。
【関連人物】デカルト、スピノザ、ライプニッツ
社会契約説
個人が生まれながらにもつ自然権を保障するために、人民の合意のもとに社会契約を結び、国家を樹立するという理論です。17世紀後半から18世紀にかけて提唱されました。
【関連人物】ホッブズ、ロック、ルソー
啓蒙主義
17世紀後半から18世紀にヨーロッパで広まった、理性によって伝統的な因習・迷信・偏見・無知から人間を解放する思想運動のことです。
【関連人物】モンテスキュー、ヴォルテール、ディドロ、ダランベール
ドイツ観念論
18世紀後半から19世紀初めのドイツにおいて、人間の理性や精神など観念的なものを中心において世界を理解しようとした思想をいいます。
【関連人物】カント、フィヒテ、シェリング、ヘーゲル
功利主義
人間の行為の善悪の判断基準を、その行為が快楽や幸福をもたらすか否かに求める倫理観のことをいいます。18世紀後半から19世紀にかけて成立しました。
功利とは、利益・快楽・善・幸福を増大させることに役立ち、損害・苦痛・悪・不幸を減少させる性質をさします。
【関連人物】アダム=スミス、ベンサム、ミル
実証主義
すべての知識の対象を、観察できる経験的な事実に限り、経験的な事実の背後になんらの超経験的な実在を認めない考え方をいいます。
産業革命の進行と資本主義の発達を背景として、19世紀前半に唱えられました。
【関連人物】コント
進化論
生物は下等なものから高等なものへと変化するという学説をいいます。
19世紀に提唱されましたが、神が人間を造り、世界の中心においたと考えるキリスト教から激しい批判を受けることになりました。
西洋の現代思想
近代化は、私たちにさまざまな恩恵を与えましたが、一方で、19世紀以降、例えば労働問題や二度の世界大戦、南北問題、核兵器、環境問題など、社会に多くの問題をもたらしました。
現代思想は、さまざまな問題を抱える社会や、近代思想に対する批判の哲学として提唱されてきました。
社会主義
19世紀に入り、産業革命が進行し資本主義が発達すると、労働者の困窮などさまざまな社会問題が発生しました。これらの問題を是正するために、生産手段を公有化し、万人の利益のために管理すべきだと主張する学説を社会主義といいます。
【関連人物】オーウェン、サン=シモン、フーリエ、マルクス、エンゲルス
精神分析学
フロイトが創始した人間の深層心理に関する学問で、無意識の構造の重要性を指摘しました。人間の心理や行動を、心の奥底に隠された無意識の働きによって説明しました。
ユングは一時的にフロイトに協力して精神分析学の発展につとめたが、のちに、考え方の相違から袂を分かち、人間の心の全体像を解明する分析心理学を確立した。
【関連人物】フロイト、ユング、フロム
現象学
意識に直接あらわれる現象を分析しようとする思想です。
現象学は、自然科学のように、人間の意識から独立して世界は存在しているという前提に立ってその世界を語るのではなく、人間の意識が経験する、確かな事実を前提にして、世界を語ろうとする哲学です。
【関連人物】フッサール
実存主義
合理主義のような客観的で抽象的思考では把握できない、個としての人間の立場を強調し、孤独・不安・絶望の中に生きる、個別的・具体的な「この私」の存在を探究する思想的な立場です。
【関連人物】キルケゴール、ニーチェ、ハイデッガー、ヤスパース、サルトル、メルロ=ポンティ
フランクフルト学派
既存の社会を支配する思想を批判し、その矛盾を明らかにする批評理論を展開し、ファシズムの野蛮行為や管理社会による人間の一元的支配を批判しました。
【関連人物】ホルクハイマー、アドルノ、フロム、マルクーゼ、ベンヤミン、ハーバーマス
構造主義
ある事象の意味を、それ自体に求めるのではなく、それらの事象を関係づける社会的・文化的なシステムから理解する思想です。
【関連人物】ソシュール、レヴィ=ストロース、フーコー、ラカン
ポスト構造主義
フランスを中心に、構造主義が流行した後に、その構造主義を乗り越える思想が現れました。
【関連人物】リオタール、デリダ、ドゥルーズ、ガタリ
プラグマティズム
従来の形而上学的な哲学に反対し、思想と日常生活とを密接に関連させるイギリス経験論の伝統を受け継いだ、19世紀後半から20世紀前半にかけてのアメリカ合衆国の文化風土のもとに形成された哲学です。
【関連人物】バース、ジェームズ、デューイ
分析哲学
抽象的な観念によって思想体系を構築する従来の哲学を批判し、日常会話や哲学における命題を分析し、その命題が何を意味しているのかを明らかにすることによって、問題そのものを解消しようとする哲学です。
【関連人物】ヴィトゲンシュタイン
アメリカ政治思想
1971年に、ロールズが『正義論』を出版して公正としての正義を唱えて以来、アメリカを中心に正義論をめぐる論争が活発になされてきました。
【関連人物】ロールズ、フリードマン、ノージック、ハイエク、サンデル
その他の現代思想
上記に述べた他にも、19世紀から20世紀にかけて多くの思想が提唱され、後世に影響を与えています。
【関連人物】ベルクソン、マックス=ウェーバー、シモーヌ=ヴェイユ、ポパー、レヴィナス、ハンナ=アーレント
まとめ
古代から現代にいたる、西洋思想の大まかな歴史的な流れを記しました。
全体像をつかむことが目的であるため、各項目の説明はごく簡単にすませています。
より詳しく西洋思想について学ぶと、現代社会の諸問題について考察する力を、多少なりとも身につけることができます。